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千葉地方裁判所 昭和38年(ワ)236号 判決 1964年5月04日

原告 関口由蔵

被告 内外肥料株式会社

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告は、別紙目録<省略>記載の土地について、千葉地方法務局柏出張所昭和三六年一〇月二一日受付第八、七七八号を以て為された、被告をその名義人とする停止条件附所有権移転の仮登記の抹消登記手続を為さなければならない、訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、別紙目録記載の各土地(以下、本件土地と云ふ)は、農地で、元、訴外小林ハルの所有に属して居たものである。

二、而して、被告は、昭和三六年一〇月五日、右訴外人と本件土地について、停止条件附代物弁済契約(農地法第五条による許可があつたとき所有権が移転する旨の契約)を締結し、千葉地方法務局柏出張所昭和三六年一〇月二一日受附第八、七七八号を以て、停止条件附所有権移転の仮登記(順位二番)を為した。

三、(イ)、而して、訴外大山すみ子こと李貞善は、前記訴外人に対し、金一、六〇〇、〇〇〇円の債権を有したところ、同訴外人は、松戸簡易裁判所に調停の申立を為し、昭和三七年二月二六日、左記条項による調停が成立した。

(1)、前記訴外小林ハルは、(他一名と連帯して)、右訴外李貞善に対し、金一、六〇〇、〇〇〇円及び之に対する昭和三六年七月三日からその支払済に至るまでの金一〇〇円について一日金五銭の割合による損害金債務のあることを承認し、左の通り、分割して、之を支払ふ。

(一)、昭和三七年三月一五日までに元金の内金四〇〇、〇〇〇円及び同日迄の損害金二〇五、六〇〇円を支払ふ。

(二)、昭和三七年四月末日までに元金の内金四〇〇、〇〇〇円及び損害金二七、〇〇〇円を支払ふ。

(三)、昭和三七年五月末日までに元金の内金四〇〇、〇〇〇円及び損害金一二、〇〇〇円を支払ふ。

(四)、昭和三七年六月末日までに元金の内金四〇〇、〇〇〇円及び損害金六、〇〇〇円を支払ふ。

(2)、右訴外小林ハルは、右債務を担保する為め、債権者に対し、本件土地及び他の一筆の土地について、第一順位の抵当権を設定し、且、代物弁済の予約を為した。

(3)、右訴外小林ハルに於て、第(1) 項の分割支払金の支払を引続いて二回以上怠つたときは、期限の利益を失ひ、同訴外人に於て、未払債務を一時に支払ひ、又は、債権者に於て、右代物弁済の予約を完結することが出来る。

(ロ)、而して、右訴外李貞善は、右調停条項に基いて、本件土地に対し、抵当権設定の登記を為すと共に、前記法務局柏出張所昭和三七年三月一五日受付第一九四二号を以て、停止条件附所有権移転の仮登記(順位三番)を為した。

四、而して、原告は、昭和三七年六月七日、右訴外李貞善から、前記債権及び抵当権の譲渡を受けると共に、前記仮登記上の地位の譲渡を受け、右訴外人は、その頃、債務者に対し、その旨の通知を為し、原告は、右抵当権移転の附記登記を為すと共に、前記法務局柏出張所昭和三七年六月一一日受附第四、七七三号を以て、前記仮登記移転の附記登記を為したのであるが、債務者は、前記債務の履行を為さなかつたため、同債務者は、期限の利益を失つたので、原告は、同年六月中、債務者に対し、代物弁済予約完結の意思表示を為し、次いで、千葉県知事に対し、農地法第三条による許可申請を為したところ、同年八月三一日その許可があつたので、同日、前記仮登記に基く所有権移転の本登記(前記出張所同日受附第七、一〇九号)を為した。

五、然る以上、被告に対し、本件土地の所有権移転について、千葉県知事の許可が為されることはあり得ないところであるから、被告は、前記仮登記に基く本登記を為すことの出来ないものである。而して、本登記を為し得ない仮登記は、法律上、無意味であつて、無効のそれであり、而して、斯る登記の存在することは、所有権行使の妨害となるものであるから、原告は、所有権に基いて、被告に対し、右仮登記の抹消を求め得る権利を有するものである。

六、仍て、被告に対し、前記仮登記の抹消登記手続を為すべきことを命ずる判決を求める。

と述べ、

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、答弁として、

一、請求原因第一、二項の事実は、之を認める。

二、同第三項の事実は、不知。

三、同第四項の事実は、原告主張の日に、本件土地について、原告を名義人とする所有権移転の登記が為されたことは、之を認めるが、その余の事実は、之を争ふ。

四、同第五項の原告の主張は、之を争ふ。

五、仮に、原告が、本件土地について、その主張の仮登記上の地位を取得し、千葉県知事の許可を得て、それに基く所有権取得の本登記を為したとしても、被告の有する仮登記は、原告のそれよりも先順位のそれであつて、而も農地法による知事の許可は、同一土地について、一回に限られて居らず、再度の許可をも求め得るものであるから、被告の仮登記は、現在なほ有効なそれであつて、原告は、被告に対し、その抹消を求めることの出来ないものであるから、被告に対し、その抹消を求める原告の本訴請求は、失当である。

と述べた。

<証拠省略>

理由

一、本件土地が農地であること、及び被告が、本件土地について、原告主張の日に、その主張の仮登記を為したことは、当事者間に争がなく、その後、原告主張の日に、更に、訴外李貞善が、本件土地について、原告主張の仮登記を為し、次いで、原告が、その主張の日に、その仮登記上の地位の譲渡を受け、その主張の日に、その旨の附記登記を為して、右仮登記の名義人となつたことは、成立に争のない甲第一、二、四、五号証と証人李貞善の証言並に原告本人の供述とによつて、之を認定することが出来、又、原告が、千葉県知事の許可を受けて、原告主張の日に、右仮登記に基く、所有権取得の本登記を為したことは、被告が之を認めて争はないところである。

二、仍て、按ずるに、後順位の仮登記に基く所有権取得の本登記は、先順位の仮登記に基く所有権取得の本登記が為されることによつて、抹消されるに至る運命にあるものであるから、後順位の仮登記名義人が得た知事の許可は、それによつて為された本登記が抹消されることによつて、その本来の効力を失ふに至るものであると解し得られるので、右知事の許可は、それによつて失効するに至るものであると云ふべく、然るところ、先順位の仮登記名義人が、その仮登記に基く所有権取得の本登記を為す為めには、知事の許可を要し、而も、先順位の仮登記の登記義務者(所有者)は、それに基く本登記を為す義務を負ふて居るものであるから、知事に対し、所有権移転の許可申請を為す義務を有するものであると云はざるを得ないものであり、而して、以上の法律関係のあることを綜合して考察すると、後順位の仮登記名義人に与へられた知事の許可は、条件附のそれ、即ち、後に、先順位の仮登記名義人に許可が与へられたときは、その効力を失ふと云ふ条件(先順位の仮登記名義人に対する許可を留保して為すところの一種の解除条件)附のそれであると解するのが相当であると云ふべく、而も許可に条件を附することは、法が之を承認して居るところであるから、その様な条件附許可も亦適法有効であると云はざるを得ないものであり、而して、後順位の仮登記名義人に与へられた知事の許可が右の様な性質のそれであると解される以上、知事が、先順位の仮登記名義人に対し、更に、許可を与へ得ることは、多言を要しないところであると云ふべく、而して、原告が被告に対し、後順位の仮登記名義人であることは、前記の通りであるから、原告が得た知事の許可は、後順位の仮登記名義人に対するそれであることが明かであり、従つて、被告は、先順位の仮登記名義人として、更に、知事の許可を求め得るものであり、又、知事は、その申請に対し、許可を為し得るものであると云はざるを得ないものである。

然る以上、被告の有する仮登記は、先順位仮登記として、現に、その努力を有するものであると云はざるを得ないものであるから、原告が、後順位の仮登記名義人として、知事の許可を得て、その本登記を了した現在に於ても、被告の有する仮登記の抹消は、之を求め得ないものであると断ぜざるを得ないものである。

三、然る以上、原告の本訴請求が失当であることは、多言を要しないところであるから、原告の請求は、之を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 田中正一)

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